抗がん剤治療を受けなくていいのですか?

2018年05月04日

緩和ケアの外来をやっていると、最初から抗がん剤治療を希望されないために紹介されてくる方がいらっしゃいます。

大学病院などの拠点病院は、抗がん剤治療をやらないなら通院する必要はないからと終診。緩和ケアを担う病院に患者を送ってきます。こういった患者を主治医としてフォローできる緩和ケア外来が少ないこと(緩和ケア病棟の入棟面談だけの外来が多い)も問題ですが、ここではまず抗がん剤治療を希望しないと患者から言われた時点で、がん治療医がどういったコミュニケーションを患者としてきたかが気になります。

まず、抗がん剤治療を受けたくない理由としっかり向き合っているのでしょうか。よくよく聞いてみると、漠然とした副作用への不安であったり、そもそも近藤誠先生の書籍を読んで抗がん剤治療は受けないと決めた方など、さまざまな理由が出てきます。

抗がん剤治療を必要としているということは、恐らくは転移・再発している状況(例外を除く)です。治療の目的は根治ではなく延命となります。そこまで考えて、延命のために抗がん剤治療に時間を費やすことは自分らしく生きられないからと決めてくる方もいらっしゃいます。ここまで考えておられるなら、分からなくもありません。延命の価値は、人によっても異なります。たとえば若く子供がいる患者にとっては、少しでも、数ヶ月でも、子供といる時間を長くすることに意味があるでしょう。80歳を超える高齢で家族がいない患者にとっては、数か月の延命に意味を感じないのも理解できます。

がんの種類によっても考え方は異なるでしょう。膵臓がんStageⅣであれば、たしかに抗がん剤治療を受けないという選択も現実的にありかとは思います(期待される効果から考えると)。逆にホルモン感受性のある乳がんであったら、もったいないと思ってしまいます(治療すれば年単位で延命が期待できるからです)。

こういった患者が受診してきたとき、まず抗がん剤治療を本当に受けなくて良いのか話し合います。往々にして、紹介元のがん治療医とのコミュニケーション不足により、抗がん剤治療についての理解が不十分なことも少なくありません。仕事を辞めないといけないと思っていた患者もいました。理解が不足している場合は、私がある程度の説明をすることもありますし(だから、緩和ケア医にも抗がん剤治療についての知識が求められます)、もう少し詳しく話を聞きたいとなった患者にはセカンドオピニオンをお勧めしています。そして、ご希望されれば私が信頼している腫瘍内科医に紹介しています。もちろん話し合った結果、本当に抗がん剤治療を受けたくないと決意が固い患者は、私が責任もって最期までフォローすることを約束します。

ところで、抗がん剤治療を受けたくないと言って来る患者は「自分の免疫力を高めて、がんを治そうと思います」といった、やや非科学的なことをおっしゃる方が少なくありません。もちろん、ともに奇跡を信じたいと思いますが、一方で最悪にも備えないといけません。がんが進行してきたときに、どういったことで困るか、そのためにどういった準備をするべきかの共有をします。どのようになっても見捨てることはないし、必要時の入院を含め、希望する場で過ごせるような支援を約束します。そして、最後に必ずお伝えすることがあります。

「抗がん剤治療をしたくないのはよく分かりました。そういう患者さんも少なからずいらっしゃいます。そして、中には途中でやはり抗がん剤治療をやりたいと翻す方もいらっしゃいます。そのときは、がん治療医に相談できるようにします。でも、ひとつ覚えておいてください。抗がん剤治療は元気だからやれる治療なのです。元気でなくなったら、やりたくてもできないかもしれません。いま、あなたは元気です。だから抗がん剤治療を勧められました。将来、あなたの願いに反して元気でなくなったとき、やっぱり抗がん剤治療をやりたくなってもできないかもしれません。厳しい言い方ですが、このことは伝えておきたいと思います。」

本当に抗がん剤治療を受けなくて良いのですか?
いちばん難しいコミュニケーションの1つです。

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