最期の願いを叶える…のは良いけれど

2017年10月03日

自分が緩和ケア、そして在宅医療に関心を持つきっかけの1つに、2008年に放映されたNHKスペシャル 最期の願いをかなえたい~在宅で癌を看(み)取る~がありました。

当時、内科の研修医として病棟で終末期がん患者を診療する中で、これで良いのだろうかというモヤモヤを抱えていました。当時の自分は緩和ケアのスキルもなく、緩和ケアを教えてくれる指導医もなく、自学自習で苦しんでいました。そんな中で、がん患者もこうやって穏やかな最期を自宅で迎えることができる、という新しい世界を知ることができました。何よりも「家で過ごしたい」という最期の願いを叶えるというキーワードには、治すことのできない医師の免罪符になるような誘惑がありました。

その後、しっかりと緩和ケア、在宅医療を学ぶため、亀田総合病院にて研修。研修終了時に、このNHKスペシャルで取り上げられた小澤竹俊先生の診療所にて、1日ではありましたが研修する機会もいただくことができました。とても真っすぐで、誠実な先生の人柄に、改めて魅せられました。

研修を終え、東京に戻り、緩和ケアの専門家として診療するようになりました。できるだけ「自宅で過ごす」ことが最期の願いを叶えること、素晴らしいこと、という認識のまま、病院で診療しながら望む患者には自宅へ往診するという二刀流のスタイルを確立しました。

しかし、自宅でがん患者を看ることは、必ずしも美しいことばかりではないと知ることになりました。病院を追い出されて、仕方なく自宅で過ごす方。経済的な理由で入院できない方。がん難民となり入院先が無い方。本音では入院したいと思っているが、準備が間に合わない方。などなど、社会的の問題により、在宅で過ごす方も少なからずいることを知りました。そういった場合、たとえ自宅で亡くなられても、本当に良かった、というより、やむなく…という感情も見え隠れしていたこと、見て見ぬふりをしていました。

自宅で過ごすことを望んで、在宅療養されることは素晴らしいことです。それは間違いありません。ですが、それは望んだ場合です。在宅だけが素晴らしいのではなく、病院でも在宅でも、そのときに望む形で過ごせるのがベストなのだ。いま、自分はそのように考えています。

さて、他院を退院されて、最期の数日を自宅で過ごされるという方は、いまも少なからずいらっしゃいます。お看取りの際にはご家族に「最期を自宅で過ごせてよかったですね」とお声をかけます。でも、本当にこれで良かったのだろうか、もっといろいろな過ごし方ができたのではないだろうか、と自分の手に届かなかった部分に思いを馳せます。

だから、在宅医療は素晴らしいと思いつつ、在宅医療だけをする医師にはならないのです。

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